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耳鼻咽喉科医長 森下 大樹
【リティンパとは】
慢性穿孔性中耳炎や鼓膜穿孔に対する鼓膜閉鎖は従来、自身の筋膜や結合織を用いた鼓室形成術や鼓膜形成術が行われていました。これは、耳の後ろの皮膚を切開し、筋膜や結合織を採取し、鼓膜穿孔に筋膜を裏打ちする、あるいは鼓膜を二枚おろしにした後に筋膜を間に挟み込むという方法です。
この方法では、皮膚切開や全身麻酔、入院が必要なことが多く、患者さんの負担が大きいことが問題でした。
しかし、2019年11月に患者さんの負担が少ない新しい鼓膜閉鎖法が保険適用されました。それは、鼓膜穿孔に対する医薬品として初承認されたリティンパを用いた方法です。
リティンパは、ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子という成分が含まれた製剤であり、簡単に言うと、鼓膜の再生を促す製剤です。このことから、リティンパによる鼓膜穿孔閉鎖は、鼓膜再生療法とも呼ばれます。この方法のメリットは、局所麻酔下、30分程度の日帰り手術であり、皮膚切開や入院、全身麻酔が不要なことです。
【手術方法】
リティンパによる鼓膜穿孔閉鎖術では、まず鼓膜の穴の縁を炭酸ガスレーザーまたは耳用の針で少し切り取ります。これを「新鮮化」といい、組織が再生しやすい状態にします。その後、鼓膜の穴に鼓膜再生を促す成分をしみこませた吸収性のスポンジ(リティンパ)を入れます。そして、医療用接着剤で固定します。
鼓膜が順調に再生すると、1ヶ月から数ヶ月で自分自身の鼓膜になります。入れたスポンジは1~数ヶ月程度で自然に溶けてなくなります。
【鼓膜閉鎖率】
この手術は合計4回まで施行可能です。4回まで行う前提で、鼓膜穿孔が閉鎖する確率は約80%。1回の手術で閉じないこともありますが、複数回行うと穴の閉じる確率が上がります。各手術の間隔は約2ヶ月空けます。鼓膜閉鎖後1年の間に隙間を生じなければ、まず一生もちます。
リティンパによる鼓膜穿孔閉鎖術で完全に閉鎖しなかった場合でも、鼓室形成術や鼓膜形成術を行うことができます。
また、鼓室形成術や鼓膜形成術で閉鎖しなかったが、リティンパによる鼓膜穿孔閉鎖術によって閉鎖に至った症例も経験しています。
【当科での取り組み】
当科では、2020年4月からリティンパによる鼓膜穿孔閉鎖術を開始しました。毎週のように、この方法で鼓膜閉鎖を行っています。
今まで入院や全身麻酔が必要でしたが、日帰り局所麻酔下の短時間で鼓膜閉鎖できるようになったことから、多くの方に喜ばれています。
すべての方がリティンパによる鼓膜穿孔閉鎖術の適応となるわけではありません。診察、聴力検査やCT検査を行い、適応を見極めた上で、適切な鼓膜閉鎖方法をご提案します。
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