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リハビリテーション科部長/整形外科特任 常田 剛
「卒中」の語源は、「卒然邪気や邪風に中る」と言われています。脳卒中に代表され、突然起こる意識障害や麻痺など中枢神経の機能障害を意味します。一方、「骨卒中」とは、「骨に突然起こる重篤な障害」を意味する造語です。定かではないですが、2017年、岡山でのリハビリテーション医学会で、鳥取大学の萩野教授から伺った覚えがあります。
2019年の国民生活基礎調査の結果によると、要介護の原因は認知症(17.6%)、脳卒中(16.1%)、フレイル(12.8%)に次いで骨折・転倒(12.5%)が4位でした(図)。高齢者の方々が増え、骨粗鬆症・骨折に伴う移動能力の低下により寝たきりになる可能性が高く生命予後にも影響を与えるため、骨折は大きな問題になっています。当然、骨折を予防しなければならないのですが、多くの人がなかなか積極的になりません。骨粗鬆症・骨折の予防の取り組みを始めても、すぐにやめてしまいます。おそらく、骨折を軽視し危機感を持っていただけないことや、予防効果が実感できないことも要因でしょう。骨折は子供やアスリートが短期間で治癒し復帰できるので、世間では軽く思われている印象です。「骨折ぐらいで助かった」という言葉を耳にしますが、「脳卒中ぐらいで」、「心筋梗塞ぐらいで」とは誰も言いません。それは、骨折が命に直接関わらない疾患と思われているからでしょう。そのため、萩野教授は高齢者の背骨や股の骨折(椎体骨折や大腿骨近位部骨折)については若者と異なり、突然そして重篤な障害をきたすため名前を変えよう、ということになり「骨卒中」と呼称する提案をされました。
高齢者骨折に対する無理解は海外でも同様です。高脂血症・高血圧症・糖尿病・肥満などのメタボリックシンドロームであることが、heart attack(心臓発作)に繋がり、生活の質(QOL)を損ない医療費の増大や命に関わることは理解できます。そして、骨粗鬆症・サルコペニア・転落歴・糖尿病・肥満などの不活動状態も、QOLを損ない医療費の増大や死亡率を高めるため、深刻な問題と報告されています。それゆえ、骨粗鬆症・骨折も生命予後に関わる疾患だと啓発するため、heart attack(心臓発作) と同じように bone attack(骨卒中) と呼称されています。「卒中」とくれば、速やかな治療介入と再発予防ですが、まずは骨粗鬆症・骨折予防(薬物療法、食事療法、運動療法)に取り組みましょう。
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