健康コラム

せん妄発症予防、身体拘束低減化に関する取り組み

看護部

認知症看護認定看護師 武藤 三奈

せん妄発症予防、身体拘束低減化に関する取り組み

今回は、当院におけるせん妄発症予防、身体拘束低減化に関する取り組みについてお話をさせて頂きたいと思います。

当院は、栄区唯一の急性期病院です。栄区や近隣地域にお住まいの多くの方が急なご病気や手術、治療で入院をされます。体調が悪い時、身体の具合が悪い部分だけでなく、身体全体も一緒に具合が悪くなります。そうすると、脳の活動も悪くなるので、意識もうろうの状態や、ひどいと意識を失った状態(意識障害)で病院にいらっしゃる方もいます。また、体調だけでなくお薬やお酒の影響で意識障害になる場合もあります。治療を受けると、だんだん身体も回復し、意識が回復してきます。しかし、脳の働きがまだ100%ではない状態なので、怪我や傷の痛み、苦痛を伴う検査・処置・薬剤、入院環境で雑多な音や話し声、夜眠れない、空腹感など様々な要因が身体・精神的ストレスをかけます。そうすると、普段の様子と違い、イライラして怒りっぽくなったり、集中力が保てなくてソワソワしてしまう、治療や入院の状況理解が難しく突然点滴を抜いて動き出してしまったり、治療や医療者のケアを嫌がったりされ、適切な治療が受けられなくなってしまう状態、いわゆるせん妄の症状を発症する方がいらっしゃいます。

せん妄の発症に関しては、発症しやすい方がいらっしゃいます。(表1

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過去にせん妄を発症された方は再発する可能性が高いと言われています。また、認知症の診断、治療をうけている方は体調だけでなく普段の慣れた環境と違うだけでも混乱や精神的に不安になりせん妄を発症しやすい状況となります。せん妄発症をしやすい方に関しては、入院時にご本人、ご家族にお話を伺い、せん妄発症リスクについての確認と、「せん妄についてのご説明」のパンフレットをお渡しています。(図1)確認時に、基礎疾患や飲酒量、お薬等様々な情報を頂きますが、以前にせん妄を発症されたことに関しても伺います。もしかしたら、せん妄という言葉の表現はされなくても、「前の入院や手術の後の数日、言動がおかしかった」、「性格が変わったように急に怒りっぽくなった」という『なんだか普段と違う』と思ったという出来事があり、「それってもしかしてせん妄?」と迷うこともあるかもしれません。そのような出来事が以前あり心配という方は、お気軽に看護スタッフへお伝えください。

入院後、せん妄発症のリスクが高い方に関しては、せん妄の発症予防を行いながら、早期治癒、早期に元の環境へ戻ることができるよう治療やケアを行っています。しかし、どうしてもその治療が必要でその治療が受けられない事で患者さんに不利益となってしまう(入院している疾患以外で怪我をする可能性、治る病気なのに治らなくなる、亡くなってしまう危険性がある)事や、興奮をされて他者(ほかに入院をされている患者さんや病院のスタッフ)に危害を加えてしまう危険がある場合は、医師、看護師、その他病院内のスタッフで話し合い、必要となった場合は身体拘束を行う事があります。身体拘束を実施する場合は、ご本人やご家族に医師より状況の説明、身体拘束に関しての同意を得て実施をさせて頂いています。身体拘束に関しては、ご本人にとって身体的にも精神的にも苦痛を感じ辛い体験となります。そして、実施しているスタッフも治療のためとはいえ辛い気持ちになります。

実施期間中は毎日病状、治療の方針の共有し、拘束が今の状況で本当に必要か?代わりに可能な治療方法やケアの方法はないか?を検討しています。また、1日の中で身体拘束を外して過ごせる時間を設けるなど、身体拘束を最小限に、早期に外す事ができるよう病院内のスタッフで考えて取り組んでいます。検討内容によっては、入院環境を少しでも慣れ親しんだ環境に近づけ過ごせるよう、自宅で愛用している物やご家族の写真やお手紙など入院中の不安や寂しさを和らげ安心できるもの、時間や日にちが見て認識できるカレンダーや時計などのご持参の協力をご家族にお願いしています。

せん妄は発症しても、身体が治癒していくことや普段の生活を送ることで改善します。しかし、高齢者や認知症の患者さんでは、せん妄の症状が回復することに数カ月単位かかってしまうことや改善しないまま認知症の発症や進行をしてしまう方もいらっしゃいます。よく認知症とせん妄は何が違うのか?という質問を受けることがありますが、せん妄は身体の調子が悪くなる事で一時的に脳の働きも低下するため、体調がよくなってくると改善し、普段通りになります。しかし、認知症は脳の神経細胞が死んでしまい、脳の働きに障害が出てくる病気なので、せん妄の様には回復しません。せん妄になることを予防する、また、せん妄になっても早期に回復できるよう治療、ケアをすることがその後の認知症発症や進行の予防にもつながります。そのためには病院全体でせん妄の予防、ケアと身体拘束の低減化に引き続き取り組んでいきたいと思います。ご家族の方、介護・支援をされている方には引き続きご協力をお願い致します。

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せん妄パンフレット(677KB)
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