消化器外科 川口 雅彦
膵臓がんは、がんの中でも最も見つけにくく、最も手強い病気の一つです。日本では年間4万人以上が新たに診断され、5年相対生存率は約9%と、がんの中でも最低水準にとどまります(国立がん研究センター)。膵臓はお腹の奥深くに隠れており、早期にはほとんど自覚症状がありません。背中の痛みや食欲の低下、体重減少に気づいたときには、すでに進行していることが少なくないのです。
ただし、ごく初期(上皮内がん)や大きさ10mm未満で見つかれば、手術による根治も十分に期待できます。問題は「どうやって見つけるか」でした。腹部超音波は、胃や腸のガス・脂肪に邪魔されて膵臓が映りにくい。CTも、10mm以下のがんを捉えるのは困難です。超音波内視鏡は精度が高い一方、体への負担があり気軽には受けられません。そこで日本では、家族歴や糖尿病などリスクの高い人を重点的に調べる取り組みで成果を上げてきました。
2026年4月、この常識を揺るがす研究が医学誌『Gut』に発表されました。米国のメイヨー・クリニックなどが開発したAI「REDMOD」は、ふつうの腹部CT画像から、人の目では認識できない膵臓の微細な変化を自動で読み取ります。放射線科医が「異常なし」と判定した画像を検証したところ、REDMODは診断が確定する中央値475日前――およそ1年4か月前の時点で、73%のがんを検知しました。同じ画像を読んだ放射線科医の39%の、ほぼ2倍です。診断2年以上前の画像では68%対23%と、差は約3倍に広がりました。特別な撮影ではなく、日常のCTでわかる点が何より画期的です。
日本でも動きがあります。富士フイルムは2025年5月、超音波内視鏡の検査中に膵臓の病変が疑われる領域をリアルタイムで検出するAIソフトについて、国内で初めて薬事承認を取得しました。胃や大腸の内視鏡で実績を重ねてきたAI技術が膵臓にも広がり、検査中の見落としを防ぐ仕組みが動き始めています。
膵臓がんの早期発見は「ほぼ不可能」と長く言われてきました。いま、AIがその壁を越えようとしています。REDMODはまだ研究段階で、実際の診療で使えるようになるにはさらなる検証が必要です。それでも、たまたま受けた腹部CTから早期の膵臓がんが見つかる―そんな時代が、少しずつ近づいています。
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