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病院のお話・健康コラム

最近話題のロボット支援手術

整形外科

整形外科副部長/関節再建外科・人工関節センター センター長  五十嵐 健太郎

最近話題のロボット支援手術① ~ロボットの歴史~

最近,ロボット支援手術が何かと話題になっています.ロボットの歴史から医療におけるロボットの発展,未来への展望について何回かに分けてお話しようかと思います.第1回目はロボットの歴史についてです.

最古のロボット

ロボットの歴史は比較的古く,ギリシャ神話を題材としたホメロスの叙事詩イーリアスに炎と鍛冶の神であるヘーパイストスが「黄金の美女」を作ったとするものが最古と言われています.

ロボットの語源と欧米の潮流

ロボットの語源に関してはこれも文学が先行しており,チェコの作家であるカレルチャペックがロッサム万能ロボット会社という戯曲で強制労働を意味する「ロボッタ」,労働者を意味する「ロボトニーク」からロボットという言葉を作りました.ロッサム万能ロボット会社が製造した労働用ロボットにより仕事から解放されて何もしなくなった人間に対し,ロボットたちが反乱を起こし人間を掃討するというショッキングな内容は,工業における機械の発達が人類の脅威となるという当時の漠然とした社会の不安感と相まって世界中で話題となったようです.また,文学はロボット工学にも大きな影響を与えており,1950年にアイザックアシモフはアイロボットにおいて「ロボットは人間に危害を与えてはならない」「ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない」「ロボットは自己を守らなければならない」とするロボット工学三原則を示し,後のロボット開発においてもそのコンセプトは引き継がれました.

日本におけるロボット

このように欧米ではロボットは人間に対する脅威であるという描かれ方をしたのに対して,日本においては1951年に鉄腕アトム,1956年に鉄人28号が発表されましたが,いずれも人間社会に寄り添うロボットとして描かれています.鉄腕アトムは自身で意思を持ち行動する「自律型ロボット」であることに対して,鉄人28号は「操縦型ロボット」であり,操縦者がコントロールします.この「自律型」と「操縦型」という分類は代表的なロボットの分類として現在も君臨しています.

医療とロボットの出会い

手塚治虫は1976年に発表した「ブラックジャック」の作品の中に複数の多関節アームで構成される自律型手術ロボットを描き,未来の手術を予言しました.

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最近話題のロボット支援手術② ~医療とロボットの邂逅~

最近,ロボット支援手術が何かと話題になっています.前回はロボットの歴史についてお話しました.第2回目は医療とロボットの出会いについてお話します.

医療とロボットの出会い

手塚治虫は1976年に発表した「ブラックジャック」の作品の中に複数の多関節アームで構成される自律型手術ロボットU-18を描き,未来の手術を予言しました.一方,現実社会におけるロボット手術は「外科医が不在の際の緊急手術をどうするか?」という命題が発端となりその可能性について検討が始まりました.1961年南極遠征隊で医師が虫垂炎を発症し,救急隊到着まで猶予もなく「自己虫垂切除術」を行い一命をとりとめました.隔絶された空間においても緊急手術を擁する可能性が当然存在することが強く認識されたようです.1970年代NASAは宇宙空間における急病への対応としてロボットを用いた遠隔手術を考えたようですが,ロケット打ち上げの振動に耐える精密機械作成や通信遅延問題といった当時の科学技術では超えられない壁が多く断念されたようです.

ロボット手術黎明期

1980年代に入り人類初のロボット支援手術がカナダで行われました.整形外科の膝関節に対する関節鏡手術で使用され,術者の声で足の位置を操作するという機能のロボットだったようです.人に対する初のロボット手術は1985年アメリカで行われました.脳腫瘍の生検術に際しCTガイド下に針をターゲットまで進めて正確に脳腫瘍を生検することができるロボットです.

真打登場,da Vinci

1991年,米軍関連の大学で戦場での遠隔手術を想定したロボットの実験が行われ,3D画像立体視下に遠隔操作で豚の血管吻合に成功しました.これが世界でもっとも有名な手術支援ロボットda Vinciの原型になります.1994年から開発が開始され,1999年に発売,2000年のFDA承認を経て日本では2012年に前立腺悪性腫瘍に対し保険収載され,近年では泌尿器科,消化器外科,婦人科,心臓血管外科領域の手術に際し広く使用されています.手塚治虫が1970年代に予言した手術ロボットU-18がこのda Vinciそっくりな形をしているのは偶然でしょうか?

ロボット手術に求められることの変遷

戦場や宇宙空間といった外科医不在下での手術を想定し開発された手術支援ロボットは現在,手術成績を向上するために「人間の能力を補う」ものになっています.外科領域では狭い空間での精緻な動作やスムースな動きといった人間の手を超えた動きを実現しています.さて,整形外科領域において手術支援ロボットはどのように進化してきたのでしょうか?

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最近話題のロボット支援手術③ ~整形外科におけるロボット支援手術~

最近,ロボット支援手術が何かと話題になっています.前回は医療とロボットの出会いについてお話ししました.最終回の第3回目は整形外科におけるロボット支援手術についてお話します.

骨を扱う手術に求められるもの

骨を扱う整形外科領域には特有の課題があります.脊椎手術で正確にスクリューを打つ,人工関節を正しい角度で設置する.いずれも角度と距離のシビアな正確性が求められるため,熟練の匠の技が必要であり,若手整形外科医は先輩の技をいかにして習得するか日々研鑽を積んでいます.

ロボット支援手術は整形外科で先行

さて,前回のコラムでは人類初のロボット支援手術が「整形外科」において膝関節に対する手術で行われたことをお話ししました.その後,整形外科領域のロボットはどのような変遷を経たのでしょうか?da Vinciの原型が遠隔操作で豚の血管吻合に成功した1991年から遡ること6年,1985年米国カリフォルニア大学デービス校とIBMが人工関節支援ロボットを開発し犬の人工股関節置換術を行いました.1992年に人に臨床応用されましたがこれはda Vinci開発開始の2年前であり,ロボット支援手術は整形外科領域で先行していたと言えます.整形外科で扱う骨は内臓器等と異なり硬く,ある意味工業製品の加工に近いため,内臓組織を扱う程の繊細さが求められないためロボット制御が比較的容易であることが大きな理由と考えられます.

当院で導入した人工関節置換術支援ロボット

当初,先行していたロボット支援整形外科手術は一度停滞期を迎えました.骨に対する正確な手術だけでは患者満足度を含む臨床成績で熟練した整形外科医の手術とあまり差が無かったのです.2010年代から各メーカーが整形外科医と協力し骨以外の要素に注目し,靱帯等の軟部組織バランスをいかに調整すれば術後の機能が改善するのかを検討し,新たな人工関節支援ロボットが開発されました.当院で20235月に運用を開始した人工関節置換術支援ロボットROSA Reconシステムは0.5mm0.5°といった手術の正確さに加え,靱帯のキツさや緩さといった要素を個々の患者さん毎にきめ細やかに調整することが可能です.整形外科医としては悔しいのですが,ロボット支援人工膝関節置換術を行った患者さんの術後回復は早く,前任の金沢大学でも明らかに入院期間が短縮し,早期社会復帰につながっていました.

整形外科医療におけるロボットの今後

鉄腕アトム,鉄人28号,AiboASIMOを生み,工業製品加工ロボットでも圧倒的世界シェアを持つ日本はロボット大国です.この日本で開発され,世界に衝撃を与えた医療用ロボットがあります.リハビリに併用することで術後早期回復に寄与することが報告されているリハビリテーション支援ロボットです.「新たな」そして「より良い」整形外科医療を提供するため横浜栄共済病院関節再建外科・人工関節センターでは今後もアップデートを欠かさず誰もが安全・安心に手術を受けられるよう,そして地域の皆様の健康寿命の延伸に寄与していきたいと考えます.

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