循環器内科 石黒 恵
皆さん、こんにちは。突然ですが、今朝、鏡でご自身の姿をご覧になりましたか?
髪型や服装を気にした方は多いと思います。では、ご自身の血管の姿をイメージされた方はいらっしゃるでしょうか?おそらく、普段はなかなか意識しないものと思います。
私たちの体の中には、地球2周半、約10万キロメートルもの血管が張り巡らされています。その中でも、心臓から送り出された酸素や栄養を全身に運ぶ、最も重要なパイプが動脈です。今回は、この動脈が硬くなってしまう動脈硬化と、その最新治療についてお話しします。
動脈硬化の最大の恐ろしさは、「沈黙の暗殺者(サイレントキラー)」と呼ばれる通り、進行の過程で痛みなどの自覚症状が全くないことです。そして、かなり悪化して初めて牙をむきます。昨日まで元気だった人が突然倒れてしまう心筋梗塞や脳梗塞も、その原因の多くは静かに進行した動脈硬化なのです。
主な原因は、血液中の悪玉(LDL)コレステロールが増えすぎることです。増えすぎた悪玉コレステロールが血管壁の隙間に入り込んで溜まると、ドロドロの瘤(プラーク)ができ、血液の通り道が狭くなります。さらに、高血圧や喫煙で血管の壁が傷ついていると、動脈硬化のスピードが一気に加速します。
現在の医療では「The lower, the better(低ければ低いほど良い)」、つまり「悪玉の数値は低いほど、将来の病気リスクを減らせる」という考え方が世界的な常識になっています。特に、すでに心筋梗塞や脳梗塞を経験された方やリスクの高い方は、一般的な基準よりさらに厳しく下げることが重要とされ、例えば心筋梗塞の既往がある場合、LDLコレステロール値を55mg/dL未満に管理することが主流になりつつあります。
「そんなに下げるのは無理だ」と思われるかもしれません。しかし近年の脂質治療におい、PCSK9阻害薬という強力な治療薬が登場しました。これは注射薬で、LDLコレステロールを増やす因子であるPCSK9の働きをブロックし、強力なLDLコレステロール低下作用を発揮するものです。
皆さんが取り組む食事・運動・禁煙といった日々の努力と進化した医療、この両輪があれば、厳しい目標値も十分に達成可能な時代です。そして、LDLコレステロール値を厳格に下げることで、一度できてしまった血管の瘤を小さくする効果まで分かっています。
動脈硬化の治療は、我慢や後悔といったネガティブなものではなく、5年後10年後のあなたやご家族の笑顔を守るためのステップと捉えることもできると思います。そのような前向きな気持ちで、一緒に治療に取り組んでいただけたら幸いです。
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